Z会体験記



 予備校業界に入って11年目、初心に戻れ、謙虚になれと自分に言い聞かせ、改めて
自分の小論文指導の仕事っぷりを客観的に検証してみようという気になった。ひとを
指導する以前に、自分自身にどのくらい小論文を書く能力があるのかを試してみよう
と思ったのだ。考えてみれば、毎日ひとの書いたものを評価していながら、自分が書
いたものを評価してもらった経験は一度もないのである。
 ご近所の代ゼミや河合塾が行っている「論文模試」を受けて見るのもいいなぁと考
えた。けれど、当ゼミの生徒と同じ机に座ったりしたらいやだし、高校生・高卒生の
なかにあって一人だけおっさんがいるというのも変だし、ことによったらあらぬ疑い
をもたれたりすることも考えられて、それはやめにした。
 それで通信添削なら問題なかろうと、その筋では老舗の増進会、通称Z会に問い合
わせの電話を入れてみたのだ。
 「はい、大学を受験しない一般の方でも受講できます」と言われて、早速申し込ん
だ。

 最初の印象。高いっ。普通はそんな計算はしないが、あえて払った代金を添削採点
してもらう回数分で割ると、一回5,000円くらいの価格になる。田中ゼミの場合、30
分の面談を含めて一回2,600〜2,800円だから、2倍近い高さということになる。もち
ろん田中ゼミでは偏差値やら順位やらは出ないし、通信添削なら人に会わずに自宅で
事がほとんど処理されるのに、塾だと決まった時間に体を塾まで運ぶ労がある。

 断っておこう。この報告文は決して「最初に結論ありき」ではない。つまり、Z会
の通信添削「小論文」コースがいかにだめで、田中ゼミの互いの目と目を合わせる密
着個人指導がいかに良いかという結論を読者に押し付けたいわけではない。
 それどころか、さっすがZ会、と賞賛したい部分もある。たとえば、問題・解答・
解説・資料はよく研究されていて、その質はかなり高い。田中ゼミで使う教材のシェ
アでもZ会は高い。問題の難易度が高すぎるきらいはあるが、教材の出来不出来の差
が大きく、しかもそれが指導の成否に与える影響が大きい論文・国語分野ではZ会は
信頼できる業者なのだ。

 私が8回取り組んだ問題もなかなかの出来映えだった。半月後に送られてくる解答
・解説・資料も手がこんでいる。だが、あえて言えば、それらは量が多すぎる。受験
生は論文だけを勉強しているわけではないということからみて、とても消化できる量
ではない。もうひとつ言うと、問題はたしかに良問だが、レベルが高すぎる。このレ
ベルで、はたしてついてこれる高校生・高卒生が全国にどれくらいいるのかと首をか
しげてしまう。国公立で言えば東大・京大・一橋レベルを狙える素質でないと無理だ。
私立だったら慶應以外はお門違いといっても言い過ぎではないレベルである。
 そんなこともあって、長期で申し込んだ者はたいがい契約途中で答案送付を投げ出
すのではないか。憶測で言って、契約回数の3分の1をこなすかこなさないかくらい
が平均ではないかと想像される。つまり全体から見たら、払われた代金の3分の2は
ドブに捨てられているのである。

 私が提出した8論文のうち、4論文で「首席」をいただいた。写真参照。
 競争相手は高校生・高卒生であり、しかもこちらはその道10年選手の曲りなりのプ
ロなのだから、首席4回は当然の結果だと言われるかもしれない。意地悪な人からは
他の4回はどうだったのか、命取りになりかねない失態ではなかったかと指摘される
かもしれない。そのへんの判断は読者に任せよう。
 答案は当初立てられていたスケジュール通りに返却された。たしかに赤ペンで丁寧
にいろいろ書きこまれている。だが、それを読んでも半分以上なにを言っているのか
理解できない。また、理解しようともしないこちらの態度の面もある。なぜなら、そ
の答案について半月経った後では半分以上忘却しているし、興味そのものが失せてい
るからである。もう一度設問文を読み直すところからやり直すというのは、動機の面
で条件がとてもそろうものではない。書き直せと否応なく命令されているわけではな
いのだから。
 添削について質問したり書き直したりすることができるシステムがあるらしいが、
現実にそれらを行う者はおそらく100人に1人か2人ではあるまいか。そんなもんで
ある。

 皮肉にまとめてしまうと、経営者サイドは途中で答案送付を放棄する率や、質問・
再添削をしてくる率を想定して利潤の効率を上げているということである。それらの
行為は受講者のいわば自己決定であり自己責任で設定されているのであるから、現状
がどうあれ、経営者サイドにクレームがつくという心配はない。
 大学入試科目「小論文」の準備にZ会、あるいは他の業者の通信添削も含めて、そ
れらはやっても無駄だからやめろ、などと私は述べるつもりはない。言いたいのはや
る以上は相当の覚悟と素質がいるということと、思っているより効果があがらないか
もしれないよ、ということだ。私の体験とこの報告が参考になれば幸いである。